観た映画の記録と感想(2023年10月)

 

その男、凶暴につき

めちゃくちゃ面白かった。

暴力刑事・我妻が、非合法な事業をしている青年実業家に飼われている殺し屋・清弘と殺しあう、暴力に取りつかれた人間が破滅していく様を描いた話。

とにかく暴力の描き方が良い。リアルに痛みが伝わってくる。特に良かったのが、我妻が清弘をロッカールームで暴行し、部屋の外で見張りをしている後輩刑事の菊池が、そのロッカーに体がぶつかる音を聞いて顔をしかめるシーン。殴っているところを映さずに、部屋の外に漏れ出た音を聞かせて部屋の中で行われている暴力を想像させるというのが面白かった。また、映画館を出たところを清弘に襲われ、拳銃で撃たれそうになった我妻が、清弘の腕を蹴って躱したせいで、たまたま居合わせた女性の頭が撃ち抜かれるシーン。暴力の理不尽さを改めて理解することが出来る。他にも、冒頭のホームレスを襲撃した中学生を部屋でボコボコにするシーン、クラブのトイレで薬の売人をビンタし続けるシーンなども、狭い場所で行われる暴力、終わらない暴力に対する恐怖を感じることができる。

とにかく、この映画には北野武の「暴力」という物に対する深い洞察が現れている気がした。

単純に画がかっこいいのも魅力。スーツ姿のたけしを見ると、惚れる人がいるのもよくわかる。

 

ソナチネ

めちゃくちゃ面白かった。

たけし演じるヤクザの村川が組長からの命令で沖縄の抗争の助っ人に行く。すぐに手打ちになるだろうということだったが、徐々に抗争は激化する。舎弟たちと沖縄の海辺の小屋に潜伏しつつ、束の間の休息を楽しむことになるが……みたいな話。

『その男』が面白かったので、評価の高いこの作品を観てみようと思ったら、『その男』以上に面白かった。沖縄の青い空と海、白い砂浜という、この世の楽園のような風景と、血みどろの抗争、村川の鬱屈とした感情がちぐはぐだからこそ、互いを際立たせていて、「死」という物に対する感覚が壊れていく気がした。ヤクザが子供に帰ったように浜辺で過ごしていると思ったら、突然現れた殺し屋に撃ち殺されてしまうとか。特に印象深かったのは、村川の舎弟と沖縄の組の男の二人が頭に缶を乗せてお互いに拳銃で撃ち落とす遊びをしているところに、村川が悪ふざけでロシアンルーレットを始めるシーン。村川は笑いながらやっているのだが、心の中では「死んでしまってもいい」「すべてどうでもいい」と思っているように見える。

「遊び」には、それなりの熱意と没入が必要である。しかし、村川は「ヤクザやめたくなったな。なんか、もう疲れたよ」と思っていて、恐らくすべてに嫌気がさしている。だから、人生に対して真剣ではいられなくなり、生き死にを賭ける(実際は賭けていないのでポーズでしかない)ことくらいでしか、人生に参加できなくなっている。抗争が激化しても感情を大きく波立たせるようなことはなく、淡々と、静かに破滅に向かっていくのだ。

僕はそういう鬱屈とした感情を抱えた主人公が、周囲で起こっている物事に関わっているようで関わっていないというか、実際のところはどうでもいいと思っているような作品が大好きだ。うまく言語化はできていないのだが、主人公が自己完結するタイプで、自分の命や人生など打ち捨てても構わないとすら思っていて、そのたまりにたまった負の感情が、物語の最後に主人公の自己満足的だったり破滅的だったりする行動によって一気に昇華される作品を観ると興奮する。これまでに、梶井基次郎檸檬と、マーティン・スコセッシ監督作品のタクシードライバーにそれを感じていたのだが、『ソナチネ』にも似たようなものを感じた。

おそらくこの映画は、これからふとした瞬間に思い出し、その度に見方が変わるのだろうな、と思った。

 

 

『ラストナイト・イン・ソーホー』

そこそこ面白かった。

憧れのロンドンの服飾専門学校に入学した主人公の女の子が、寮になじめず、なにやらいわくつきの下宿先に引っ越したところ、1960年代(?)にそこに住んでいた、歌手を夢見る少女になる夢を見るようになり、その少女が夢破れていく様を見るにつれて、徐々に主人公の現実もおかしくなっていく、みたいな話。

本当に、まあまあ面白い、としか言えない。面白くないことはないのだが、どこが面白かったのかと聞かれると答えられないぐらいの映画。

どれだけ芸が素晴らしくても、体を売らなければのし上がれないとなったら、精神は壊れていくだろうな、と思った。

 

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

期待していたよりは面白くなかった。

コインランドリーを経営する中国系アメリカ人のおばさんが、別の宇宙の自分の記憶と能力をダウンロードして、宇宙を滅ぼす娘と、ある日突然戦うことになる話。

表現したいであろうテーマは好きなのだが、「とにかく斬新なものを見せてやるぞ」感が逆に滑っている気がした。別の宇宙の表現(指がソーセージ、人間ではなく石が生命体)とか、「奇行が別の宇宙にジャンプする力になる」みたいな設定とか、マンガとかアニメに触れているオタクの中学生、高校生が一番最初に考える「斬新さ」っぽくてしんどくなった。あとはアニメ的熱さ(「それでも……○○するんだ!」みたいな)も受け付けない。「じゃあお前が作ってみろよ」と言われたら黙るしかないのだが。登場人物が人間ではなく「キャラクター」に見えたら僕はもうしんどくなるんだな、ということを理解できた映画。

たぶん僕に合わなかっただけで出来は良い映画なんだろうな、と思う。

 

 

ザ・コンサルタント

まあまあ面白かった。

手を出してはいけない男に手を出してしまった、系アクション映画(『ジョン・ウィック』『イコライザー』『Mr.ノーバディ』みたいなやつ)かと思いきや、愛も描いている映画だった。他の似た系統の作品とは違って、ちゃんと物語に意味がある。

 

 

グランド・イリュージョングランド・イリュージョン 見破られたトリック』

普通。

凄腕マジシャン集団が義賊をやる話。チームにメンタリストのおっさんがいるのだが、こいつが強すぎる。ほぼ超能力に近い催眠術を使う。

 

ラッシュアワー

面白かった。

中国領事の娘が誘拐される事件が発生したことで香港から呼び寄せられたリー刑事と、無茶苦茶な捜査をすることから、ロス市警から厄介払い同然で彼のお守りをするよう派遣されたカーター刑事が、誘拐事件の解決に取り組む話。

ジャッキー・チェンのアクションはコミカルかつ激しいので、見ていて楽しい。カーターも最初は自身の力量をわかっていない感じが鬱陶しいのだが、だんだん好きになってくる。楽しい映画。

 

 

浅草キッド

かなり面白かった。

北野映画を観たことで、本人に興味が出てきたので観てみた。その結果、柳楽優弥大泉洋がすごい俳優であるということがわかった。深見千三郎のどんなになっても格好つける、客に甘えずにひたすら芸を磨き続けるという姿勢はかっこいいなと思った。

 

『福田村事件』

そこそこ面白かった。

ただ、どうでもいいエロシーンが多かったのが気になった。不倫めっちゃするし。昔の田舎の貞操観念はこんな感じなんですよ、教育をしっかり受けていない人間というのは動物みたいなものなんですよ、という表現がしたかったのか? 柄本明が演じる爺さんが死んだときに、不倫関係にある嫁が亡骸の前で胸をはだけて、爺さんの顔に覆いかぶさって「ごめんね」とかなんとか言いながら泣くシーンとかいるか? 東出昌大は不倫するし。

実際にあった事件をただ映画にするだけではだめだから、村人の人間模様や、村に戻ってきた元教師の男とその妻の過去を足して厚みを出そうとするのはわかるけど、取って付けた感じがして良くなかった。映像はまあいい。引き戸の音とか、環境音が大きいような気がしたけど、これは気のせいかもしれない。

 

燃えよドラゴン

面白かった。

ブルース・リー主演の映画を観るのは初めてだったが、かっこいいな。ただ、アクションを映すときにアップにしすぎて逆に迫力に欠けていないか、と思うシーンもあった。

 

シックスセンス

面白かった。

コール君役の演技がめちゃくちゃうまい。あと、ブルース・ウィリスにガサツなおっさん役のイメージしかなかったが、物凄くやさしげで驚いた。俳優ってすごい。

 

ジョン・ウィック:チャプター2』

普通。

次々とヘッドショットを決めて敵を倒していくのは爽快感があっていいけど、3はもう観なくていいかな、くらい。ジョン・ウィックとその他殺し屋組織がただの馬鹿なんじゃないかと思えてしまった。アクションは良いけど。

 

 

『空のハシゴ:ツァイ・グオチャンの夜空のアート』

かなり面白かった。

火薬を使う中国人芸術家のツァイ・グオチャンの「スカイ・ラダー」プロジェクトを追うドキュメンタリー。実物を見てみたいな、と思った。中国で芸術活動を行うことの難しさと愛国心とのせめぎあいなど、芸術家の悩みの一端を見ることが出来た。芸術の秋に観るべきドキュメンタリーだと思った。